病院のKPIは一般的な指標一覧から選ぶのではなく、経営戦略と重要経営課題から、何を管理し、どの状態を目指し、どの変化を把握したいのかを定めたうえで設定します。
KPIは数字を集めるためのものではありません。重要な経営課題について、現在どの状態にあり、どこに変化があり、何を判断・実行すべきかを明らかにするための管理情報です。
KPIを設定すること自体が目的になっていないか
他院KPIをそのまま導入したり、大量の指標を毎月集計しても、悪化時に何を判断するのかが不明なら管理にはなりません。
KPIを持っていることと、KPIで経営を管理できていることは別です。集計しているが誰も使っていない指標、毎月報告するだけの指標が増えると、重要な変化が埋もれます。
KPIは経営戦略から逆算する
将来像から戦略、重要経営課題、管理対象を経てKPIへ落とします。戦略からKPIへ直接飛ばず、その間に「何を重点管理するか」を置きます。
例えば、人材確保が重要経営課題であれば、採用数だけではなく、必要人員、欠員、退職、配置、採用進捗、時間外勤務等の中から、その課題の状態を判断するために必要な指標を選びます。
管理したい状態を先に言葉で定める
「人材確保」「稼働向上」「収益改善」といった言葉だけでは、何を管理するかが曖昧です。
「必要な医療機能を維持するために必要な人員を継続的に確保できている状態」のように、望ましい状態を言葉で定義すると、どの数字を見ればよいかを選びやすくなります。
結果と先行する変化を分ける
利益や稼働等の結果指標だけでなく、それに先行する救急受入、紹介、入院待機、人員不足、採用進捗、重要プロジェクトの遅れなどを把握できないか検討します。
結果指標だけを見ると、問題が表面化した後に対応することになります。先行する変化を管理できれば、より早い段階で対応できる可能性があります。
財務と非財務を因果で組み合わせる
収益・費用・利益・人件費率等と、患者、稼働、人材、診療活動、生産性、地域連携、プロジェクト進捗等を別々に並べるのではなく、どの活動が経営結果につながるかを考えます。
例えば収益未達という結果に対して、患者数、病床稼働、手術、救急、紹介などを組み合わせることで、どこに変化があるのかを確認できます。
KPIは多いほどよいわけではない
指標を増やすほど網羅的に見える一方、集計・確認負荷が増え、重要指標が埋もれます。
重要課題との関係、実際に判断へ使うか、継続取得できるか、異常時に対応できるかで絞ります。取れる数字ではなく、使う数字を残すことが重要です。
判断基準をセットで設計する
病床稼働率82%という数字だけでは良否は判断できません。目標、予算、過去実績、変化率、許容範囲、将来見通し等と比較し、どの状態なら対応が必要かを決めます。
KPIと判断基準が分離していると、毎月数字を見ても「高い」「低い」という感想で終わります。
高いほどよい・低いほどよいとは限らない
病床稼働、在院日数、人件費率、手術件数等は、医療機能、質、安全、職員負荷等との関係を考えます。単純な最大化・最小化を目標にしません。
KPIは目標数値を競うものではなく、望ましい経営状態を把握するための情報です。
異常時に原因へ掘り下げられる構造を持つ
収益未達なら患者数・単価へ、人件費率なら人件費・収益へ分解するなど、次に何を見るかが分かる構造にします。
重要KPIが悪化した際に、どの補助指標や現場情報を確認すれば原因へ近づけるかをあらかじめ整理しておくと、会議での原因分析が速くなります。
誰が管理し、どこで確認するか
数字を作る人と管理責任者を区別し、誰が確認・原因分析・改善・最終判断を行うかを整理します。
また、経営会議、部門、現場のどの階層で確認すべきKPIかを分けます。すべてのKPIを経営会議へ持ち込むのではなく、上位判断が必要な重要指標へ絞ります。
KPIは戦略とともに見直す
戦略・重要課題が変わればKPIも更新します。判断に使われなくなったKPIは廃止し、新しい課題を捉える情報を追加します。
「以前から取っているから」という理由だけで指標を残し続けると、管理体系が肥大化します。
KPI設定の基本的な流れ
- 将来像・経営戦略を確認する
- 重要経営課題を特定する
- 管理したい状態を定義する
- KPIを選ぶ
- 判断基準を設定する
- 管理責任を決める
- 確認する場・頻度を決める
- 異常時の対応へつなげる
- KPI自体を定期的に見直す
KPI運用が機能しない典型的な状態
- 他院や一般的なKPI一覧から選んでいる
- 指標が多すぎて重要な変化が見えない
- 判断基準がなく、数字を見るだけで終わる
- 異常時の原因分析と行動が決まっていない
- 管理責任と確認する会議が曖昧
- 戦略変更後も同じKPIを使い続けている
まとめ
良いKPIとは、測定しやすい数字ではなく、重要な経営課題について「今どうなっていて、何を判断すべきか」を明らかにできる指標です。
経営戦略、重要経営課題、管理したい状態、KPI、判断基準、責任、会議、行動までを一つの管理構造として設計することが重要です。