病院の経営戦略を実行へつなげるには、将来像と戦略を重要経営課題へ分解し、それぞれについて管理項目、KPI・判断基準、管理責任、会議・報告、是正・改善を接続したマネジメント体制を構築する必要があります。
戦略は計画書を作った時点では実行されません。日常の経営管理の中で、何を確認し、誰が判断し、どの変化が起きたら何をするのかまで落とし込まれて初めて、戦略と実際の経営がつながります。
戦略が「計画書」で止まる理由
中長期計画や経営方針を作成しても、その後の日常管理が従来と変わらなければ、戦略は実行管理されません。経営会議では月次損益だけを確認し、各部署は従来の目標だけを追い、戦略上の重要課題について誰がどの数字を管理するのかが曖昧な状態では、計画と実際の経営が分離します。
問題は、戦略の内容が抽象的であることだけではありません。戦略を日常管理へ変換する仕組みがないことです。経営戦略とKPI、管理責任、会議、報告、改善が別々に存在していても、それらが一つの管理サイクルとして接続されていなければ実行力は高まりません。
戦略を重要経営課題へ分解する
まず、将来像と経営戦略から、実現上優先的に管理すべき重要経営課題を特定します。戦略そのものは抽象度が高いため、そのままでは日常的に管理できません。
例えば「地域で必要とされる急性期機能を維持する」という方向性があっても、それだけでは誰が何を管理すべきかは決まりません。人材確保、救急受入、病床運用、手術体制、地域連携、設備投資など、実現上の重要課題へ分解して初めて、管理対象が明確になります。
重要経営課題は現在の困りごと一覧ではない
重要経営課題は、目の前で発生している問題をすべて並べたものではありません。将来像の実現に大きな影響を与える課題、放置した場合に戦略実行を阻害する課題、経営資源の配分や重要な意思決定が必要な課題を優先して扱います。
重要経営課題を「管理できる状態」に変える
重要経営課題を特定したら、何を見れば状態を判断できるかを決めます。財務数値だけでなく、患者、稼働、人材、診療機能、重要プロジェクト等の非財務情報を必要に応じて組み合わせます。
重要なのは、取得できる数字を並べることではなく、経営上の問いに答える情報を選ぶことです。「人材確保が課題」であれば、採用数だけでなく、必要人員、欠員、離職、配置、時間外勤務、採用進捗など、どの情報が状態把握と判断に必要かを整理します。
KPIには判断基準が必要である
KPIは測定することが目的ではありません。どの状態なら計画どおりか、どの変化が起きたら対応が必要かという判断基準と一体で考えます。
単一の固定目標値だけでなく、予算差、前年差、推移、許容範囲、将来見通し等を使うこともあります。重要なのは、その数値を見たときに「何を判断するのか」が明確になっていることです。
結果指標だけでなく先行する変化を見る
利益や稼働率などの結果指標だけでは、問題が表面化してから対応することになります。救急受入、紹介、待機、人員充足、プロジェクト進捗など、将来の結果に先行する変化も必要に応じて確認します。
管理責任を明確にする
数字を作る人と、その状態を管理する責任者は同じとは限りません。誰が確認し、原因を整理し、改善を実行し、どの状態になったら上位判断へ上げるのかを明確にします。
責任とは問題発生時に責める人を決めることではありません。重要な状態を継続的に把握し、必要な対応を進める主体を定めることです。
会議と報告を意思決定へつなげる
会議では資料を説明するだけでなく、計画との差、原因、今後の影響、必要な意思決定、担当・期限、次回確認までをつなげます。経営会議、部門会議、現場管理では扱う情報の粒度を分け、すべてのKPIを経営会議へ持ち込まないことも重要です。
経営会議では全院的な重要課題と経営判断を扱い、部門会議では担当領域の原因分析と改善を進めるなど、会議ごとの役割を整理します。
是正・改善まで閉じて初めて管理になる
経営管理は「見える化」で終わりません。問題を把握した後に何を変えるかを決め、実行し、その結果を再確認します。
同じ問題が毎月報告される場合には、原因分析だけでなく、意思決定後の実行管理が機能しているかを確認する必要があります。担当と期限が曖昧なのか、実行しても効果が出ていないのか、そもそもの判断が適切でなかったのかを見ます。
戦略は固定せず、管理結果を次の判断へ戻す
外部環境や内部条件が変化すれば、当初の戦略や計画を見直す必要があります。したがってマネジメント体制は、戦略を一方向に実行するだけではなく、実行結果を次の戦略判断へ戻す循環として設計します。
計画どおりに進んでいない場合、現場の実行だけを問題にするのではなく、戦略の前提条件自体が変わっていないかも確認します。
戦略実行を妨げる典型的な状態
- 戦略と月次管理の項目が接続していない
- KPIはあるが、異常時に何をするか決まっていない
- 重要課題の管理責任者が曖昧
- 会議が資料説明だけで終わる
- 決定事項に担当・期限・再確認がない
- 戦略が変わってもKPIや会議の議題が固定されたまま
これらがある場合には、KPIを追加するよりも、戦略から実行管理までの接続を見直すことが必要です。
まとめ
病院の戦略実行に必要なのは、計画書を詳細にすることではありません。将来像と経営戦略を重要経営課題へ分解し、それを管理項目、KPI・判断基準、責任、会議、報告、是正へつなげることです。
経営を管理できる仕組みにするとは、戦略を日常の管理へ落とし込み、実行結果を次の意思決定へ戻せる状態をつくることです。