病院の人件費率は重要な指標ですが、人件費率だけで経営状態や生産性を判断することはできません。人件費率は人件費と収益の関係を示す比率であり、その変化を人件費、収益、人員、活動量、医療機能へ分解して理解する必要があります。
人件費率が高いから人員過多、低いから効率的と単純には判断できません。必要な医療機能を維持しながら、人材と収益の構造が持続可能かを確認することが重要です。
人件費率は分子と分母の関係を示す
人件費が変わらなくても収益が下がれば人件費率は上昇し、人件費が増えても収益がそれ以上に増えれば人件費率は低下します。したがって、人件費率上昇=人件費増加ではありません。
比率は経営状態を要約して見せる一方で、変化の原因を隠すこともあります。比率を見たら、必ず分子と分母へ戻ることが基本です。
まず人件費と収益を分けて見る
人件費率の変化を、人件費増、収益減、両方の変化へ分解します。原因が違えば対策も異なります。
例えば収益低下が主因であるのに人員削減だけを行えば、本来必要な医療機能を弱め、さらに収益回復を難しくする可能性があります。
人件費が高いことと人員が多いことは別
職員数、職種構成、給与水準、時間外勤務、非常勤・派遣、採用、配置等によって人件費は変わります。同じ職員数でも、職種構成や時間外勤務によって人件費総額は異なります。
人員増が必要な医療機能整備や受入能力強化によるものなら、単純に過剰人員とは判断できません。人員の量だけでなく、その人員がどの機能を支えているかを見る必要があります。
医療機能が違えば必要人員も違う
急性期、回復期、慢性期、救急、手術、外来、リハビリ等、担う機能によって必要な職種構成・人員配置は異なります。
他院比較を行う場合も、機能、規模、地域、患者構成、診療科構成、施設基準、人員配置などの違いを考慮しなければ、平均より高い・低いという数字だけでは判断できません。
問題は人件費ではなく収益側かもしれない
患者数、病床稼働、手術件数、診療単価、患者構成等の低下で収益が減れば、人員が変わらなくても人件費率は上がります。
この場合に確認すべきなのは、人件費削減だけではなく、患者数低下の原因、受入能力、救急・紹介、病床運用、診療機能、人材不足などです。収益側の問題を人件費の問題として扱わないことが重要です。
人員と活動量の関係を見る
患者数、稼働、手術・検査・リハビリ等の活動量と人員を結びつけます。同じ人数でも、提供している医療量や機能が異なれば、生産性の意味も変わります。
ただし、生産性向上を「少ない人で多く診る」と単純化してはいけません。医療機能、質、安全、職員負荷、持続可能な勤務体制との関係で考える必要があります。
生産性向上と人員削減は同じではない
- 業務プロセス改善
- 役割分担
- 配置見直し
- 標準化
- 重複業務削減
- データ活用・自動化
- 診療体制・稼働改善
必要な人員まで削減すると、医療機能低下、人材流出、時間外勤務増、受入能力低下等を通じて長期的な経営悪化を招く可能性があります。
一時点ではなく推移を見る
月次、前年、予算、数年間の推移を、人件費率だけでなく人件費、収益、職員数、活動量とともに確認します。
賞与、採用時期、診療報酬改定、患者構成の変化など、一時要因と構造変化を区別します。単月の比率だけで大きな判断を行わないことが重要です。
他院比較は問いを見つける材料として使う
医療機能、規模、地域、患者構成、診療科構成、人員配置、数値定義等が異なるため、平均より高い=悪い、低い=良いとは判断しません。
比較結果は、自院のどこが他院と異なるのか、なぜ異なるのかを深掘りする入口として使います。
低ければよいわけでもない
低い人件費率が高収益・効率運営を示す場合もありますが、人員不足、過重労働、必要機能不足、人材投資不足を伴う可能性もあります。
人件費率の最小化ではなく、必要な医療機能を持続可能な費用構造で提供できているかを見ることが重要です。
人件費率を使うときの基本構造
まず人件費率を見て、人件費と収益へ分けます。さらに人件費を人数・職種・給与・配置・時間外勤務等へ、収益を患者数・稼働・単価・診療構成等へ分解します。
そのうえで活動量、生産性、医療機能、人材確保の状態を確認し、どこに経営上の課題があるのかを整理して判断へつなげます。
人件費率だけで判断すると起きやすい誤り
- 人件費率上昇を人員過多と決めつける
- 収益減少の原因を見ずに人員削減へ進む
- 他院平均との差だけで良否を判断する
- 必要な医療機能・質・安全との関係を見ない
- 低い人件費率を無条件に良い状態とみなす
まとめ
人件費率は、経営状態を把握するための入口として有用ですが、単独で経営判断を完結させる指標ではありません。
重要なのは、人件費率という比率の背後にある人件費、収益、人員、活動量、医療機能の関係を理解し、必要な経営判断へつなげることです。