病院の診療科別損益は、分析できるところまで細分化するのではなく、経営判断に必要なところまで細分化することが基本です。

診療科ごとの収益・費用を一定の合理性をもって把握でき、その情報が人員配置、設備投資、診療機能の強化・見直し、採算改善等に使える場合には有用です。一方、病院では共通人員・設備・部門が多く、細分化するほど配賦上の仮定と管理負荷が増えます。

なぜ診療科別損益を見たくなるのか

診療科別損益を導入したいという要望の背景には、単なる会計上の興味ではなく、経営上の具体的な問いがあります。

  • どの診療科が収益へ貢献しているか
  • 医師をどこへ配置するか
  • 医療機器をどこへ投資するか
  • どの診療機能を強化・見直すか
  • 診療体制を再編するか

診療科別損益は答えそのものではなく、これらの問いを深く検討するための情報です。

何を判断したいのかを先に決める

医師配置、設備投資、機能再編、採算改善では必要な情報が異なります。目的が違えば必要な損益精度も異なるため、数字を作る前に意思決定目的を明確にします。

目的が曖昧なまま全診療科の詳細損益を作り始めると、膨大な配賦作業を行っても、その数字が実際の意思決定へ使われない可能性があります。

収益も費用も単純には診療科へ分けられない

病院では一人の患者に複数診療科が関与し、手術、検査、画像診断、病棟、救急、薬剤、リハビリなどを共用します。どの収益をどの診療科へ帰属させるか、共通部門費をどう扱うかには管理上の定義が必要です。

計算できることと、経営上意味のある損益を作れることは同じではありません。細分化するほど、配賦ルールの影響が大きくなります。

配賦した利益を絶対視しない

患者数、収益、職員数、利用件数、面積等、配賦基準が変われば診療科損益も変わります。したがって、配賦後利益を唯一の「真の利益」とみなすことには注意が必要です。

直接対応できる収益・費用による損益と、共通費を含めた損益を複数階層で見るなど、数字の性質を区別して使う方法もあります。

一つの診療科だけで判断しない

病院は診療科の集合ではなく、救急、手術、集中治療、検査、画像診断、薬剤、リハビリ、病棟等が相互依存する医療提供システムです。

ある診療科単体の採算が低くても、救急や手術、他診療科の患者受入を支える役割を持つ場合があります。逆に単体損益が良くても、共通資源を大量に使用している可能性があります。診療科損益と病院全体での役割を併せて判断します。

ランキングに使わない

利益順位だけでは医療内容、患者構成、設備負担、他部門依存、地域での役割等が無視されます。診療科間の優劣ではなく、経営状態の違いと原因を理解するために利用します。

また、診療科損益を個人医師評価へ単純転用すると、チーム医療や共通資源の影響を無視した評価になる可能性があります。

損益と活動指標を組み合わせる

患者数、新患数、入院・外来、手術件数、病床利用、診療単価、医師数、診療量等のうち、その診療科の損益変化を説明できる情報を併せて確認します。

利益額が変化した場合に、患者数が変わったのか、単価・診療構成が変わったのか、人員や設備負担が変わったのかを分解することで、改善策が選びやすくなります。

診療科より細かく見る必要はあるか

入院/外来、疾患、医療行為、病棟、患者群、医師等へ分析することは可能ですが、分析できる単位と継続的に管理すべき単位は別です。

一時的な深掘り分析として細分化することと、毎月継続して管理することは分けて考えます。管理単位を細かくするほど、データ整備、配賦、確認、説明の負荷が増えます。

管理単位を細かくする判断基準

  • その単位で独立した経営判断が必要か
  • 管理責任を置けるか
  • 収益・費用を合理的に把握できるか
  • 他部門との相互依存が強すぎないか
  • 継続的にデータ更新できるか
  • 得られる情報価値が管理負荷を上回るか

段階的に細分化する

まず法人全体、病院・事業、部門、診療科の順に見ていきます。粗い単位で問題を把握し、経営判断上必要な部分だけをさらに細分化します。

最初から全診療科について詳細な損益を作るのではなく、問題のある領域、投資判断が必要な領域、戦略上重要な領域から段階的に深掘りする方が実務的な場合があります。

診療科別損益が機能しない典型的な状態

  • 目的を決めずに全診療科の損益を作っている
  • 配賦後利益を絶対的な採算とみなしている
  • 診療科の役割や相互依存を考慮していない
  • ランキングや個人評価へ直接使っている
  • 細分化しすぎて更新・説明に大きな負荷がかかっている

まとめ

診療科別損益で重要なのは、最も細かい管理を行うことではありません。どの意思決定に使うのかを明確にし、必要十分な粒度で損益と活動状況を把握することです。

病院全体の役割と診療科の相互依存を踏まえながら、数字を原因分析と資源配分の判断へつなげることが管理会計として重要です。

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Author

高森 雅人

Wellside Consulting 代表/中小企業診断士

医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院に18年間、事務職として勤務。現在は経営管理を専門として、医療・介護を重点領域に、経営戦略、マネジメント体制、管理会計・経営数値管理に関する研究・コンサルティングを行う。

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