成果に応じて職員へ報いることと、企業として安全に配分できる報酬原資を決めることは、同じ問題ではありません。SPRSは、成果の評価と企業側の利益・資金余力を分けて考え、その範囲内で職員への還元を設計する経営管理の研究モデルです。

SPRSの中核命題は、「成果は誰にどの程度配分するかを決めるが、企業全体としていくらまで配分できるかを決めるものではない」という考え方です。

成果への還元と企業の安全性をどう両立するか

成果を上げた職員へ適切に報いることは、組織を運営するうえで重要です。しかし、成果が高いからといって、その成果に比例して報酬額を増やし続ければよいとは限りません。

特に、人件費の比率が高く、専門職を中心とする組織では、個人やチームが高い成果を上げていても、企業全体の利益や支払余力が十分でない場合があります。反対に、企業全体として利益が出ていても、成果と報酬の関係が曖昧であれば、職員にとって納得しやすい制度にはなりません。

そこでSPRSでは、「成果をどう評価するか」と「企業としてどこまで還元できるか」をいったん分け、その後に両者を接続します。成果への還元と企業の持続性を二者択一にせず、同じ経営管理の仕組みの中で扱うことが、この研究の出発点です。

この研究では、成果から報酬額を直接導く設計では、成果と企業側の利益・資金余力が一致しない可能性があることを問題として整理しています。

SPRSとは何か

SPRSは、Sustainable Performance Reward Systemの略称です。

考え方の中心にあるのは、成果に応じた配分と、企業として持続可能な報酬原資の決定を別々に行うことです。成果は「誰へ、どの程度配分するか」を考えるために使います。一方、「企業全体でいくらまで配分できるか」は、利益や資金の状態などを踏まえて別に確認します。

そのうえで、企業として安全に配分できる範囲の中で、成果に応じて報酬を配分します。

SPRSは、成果を評価する仕組みだけでも、利益を分配する仕組みだけでもありません。成果評価、企業側の支払余力、職員への配分、実際の支払、その後の見直しまでを、一連の経営管理として扱う研究モデルです。

成果と報酬原資を分けて考える

業績連動報酬では、「成果が高ければ報酬も高くする」という考え方が分かりやすく見えます。しかし、この関係だけでは、企業全体として支払える報酬総額をどこまでにすべきかは決まりません。

個人やチームの成果が高くても、企業側の利益や資金状況が厳しければ、その成果に比例して報酬を増やし続けることは、企業の持続性を損なう可能性があります。

そこでSPRSでは、成果評価を報酬総額の決定に直接使いません。まず企業として持続的に還元できる範囲を確認し、その範囲の中で成果を配分へ反映します。

これにより、「成果を評価すること」と「企業の安全性を守ること」を別々に管理できます。

企業の安全性と職員還元を同時に考える

報酬制度を企業側の利益だけから考えると、職員への還元が後回しになる可能性があります。一方で、成果への還元だけを重視すると、追加報酬が利益や資金余力を圧迫し、制度そのものを継続できなくなる可能性があります。

必要なのは、どちらか一方を優先することではありません。

企業として継続できる利益・資金条件を守りながら、その範囲内で成果を上げた職員へ還元することです。

SPRSでは、この二つを同じ管理の仕組みの中で扱います。

SPRSの基本構造

1. 成果を把握する

まず、個人、チーム、組織などの成果を確認します。

ここで把握する成果は、報酬額そのものではありません。誰にどの程度配分するかを考えるための情報として扱います。

2. 企業として還元できる範囲を確認する

次に、成果評価とは別に、企業として追加報酬を負担できる状態かを確認します。

成果が高いことと、企業に十分な利益や資金余力があることは別の問題だからです。

3. 配分可能な報酬原資を決める

企業の持続性を損なわない範囲で、報酬として還元できる総額を決めます。

この段階では、個人の成果だけを理由に報酬原資を増やすことはしません。

4. 成果に応じて配分する

企業全体として配分できる報酬原資が決まった後、その範囲内で成果に応じて配分します。

これにより、成果への評価と企業全体の負担可能額を切り分けることができます。

5. 制度の状態を見直す

報酬を支払った後も、制度が当初の目的どおり機能しているかを確認します。

事業構造、利益構造、職務内容、成果の測り方などが変われば、制度の前提も見直す必要があります。

SPRSの正式な基本構造も、成果、企業側の支払余力、配分、支払、その後の見直しという順序で整理されています。

どのような組織を主な対象としているか

SPRSは、特に人件費の比率が高く、専門職や知識労働者が組織成果へ大きく関与する組織を主な対象として検討しています。

また、個人の成果だけではなく、チームや組織全体の成果も同時に考える必要がある組織を想定しています。

制度を運用するには、成果の全部または一部を一定の合理性をもって把握できること、企業側でも利益構造や資金状態を把握できることが必要です。

一方、成果を合理的に測ることが難しい場合や、企業業績が職員の成果とはほぼ無関係な外部要因によって大きく変動する場合には、適用には慎重な検討が必要です。

また、基本給与が適切な水準に達しておらず、変動報酬が不足する給与を補う役割になっている場合には、SPRS以前に固定報酬の設計を確認する必要があります。

この研究では、人件費比率が高い組織、専門職主体の組織、個人・チーム・組織の成果が混在する組織等を主な対象とし、成果測定が困難な場合や管理情報が不足する場合などには慎重な検討が必要だと考えています。

報酬制度が機能しにくくなる主な状態

成果連動報酬は、制度を作れば自動的に望ましい行動を生み出すものではありません。

例えば、報酬を受け取る条件を厳しくしすぎると、成果を上げてもほとんど報酬が発生せず、制度としての意味が薄れる場合があります。反対に、企業側の安全性を優先しすぎることで、経営上のリスクを職員の所得変動へ過度に移してしまう可能性もあります。

また、特定の数値だけを重視すると、その数値を良く見せる行動が増えたり、売上や数量を優先して品質が損なわれたりすることがあります。

個人成果を強く評価しすぎれば、教育、支援、知識共有、チーム活動が弱くなる可能性があります。一方、チームや組織の成果を重視しすぎれば、個人の努力差が報酬へ十分反映されない場合があります。

さらに、支払を先送りしすぎれば、成果と報酬の関係が分かりにくくなります。管理者による例外的な修正が多すぎれば、公平性や説明可能性も低下します。

SPRSでは、こうした状態を制度設計時に確認すべき限界として扱い、報酬制度が機能しにくくなる主な問題として整理しています。

既存の報酬研究との関係

SPRSは、成果連動報酬そのものを新しく発明したと主張する研究ではありません。

成果連動報酬、利益分配、個人とチームの複数成果を扱う研究、報酬の一部を将来へ持ち越す考え方、企業と職員の間で報酬変動のリスクをどのように分担するかといった領域には、すでに多くの研究や実務があります。

SPRSの研究上の特徴は、それらを個別の仕組みとしてではなく、人件費依存度の高い専門職組織において、成果評価、企業側の支払余力、職員への配分、支払、その後の見直しまでを一体の経営管理として整理している点にあります。

世界初、国内初、唯一、既存制度より優れている、といった主張は行いません。SPRSの研究上の位置づけは、個々の仕組みの新規性ではなく、それらを統合した構造上の違いにあります。

現在の研究段階

SPRSでは、基本構造の論理的な整合性、研究用の試作モデル、架空条件を使った挙動確認、公開されている研究との関係などについて、現在の研究工程で確認を行っています。

架空条件による検証では、成果が高くても企業側の利益余力がない場合には追加報酬を形成しないこと、利益に余力があっても資金が不足している場合には報酬原資を制限することなど、想定した安全性の方向で仕組みが動くことを確認しています。

ただし、これは実際の企業で効果が確認されたことを意味しません。

実際の組織へ導入した場合の妥当性や、SPRSによって生産性が向上する、離職が減る、職員の意欲が高まるといった因果的な効果については、現時点では検証していません。

実際の組織での検証と、成果への因果的な効果の検証は、現時点では実施していません。

研究上の限界

SPRSは現段階で完成済みの報酬制度ではなく、研究モデルです。

実際の組織での検証はまだ行っておらず、生産性、離職、職員の意欲等への因果的な効果も確認していません。また、企業としてどの程度の利益や資金を残すべきかは、事業構造や資金繰りによって異なります。

成果が企業にもたらした経済的な価値を正確に測ることにも限界があります。特に専門職の仕事では、質、教育、支援、知識共有などを完全に数値化することは困難です。

個人、チーム、組織の成果をどの程度重視するかについても、すべての組織に共通する最適な配分は確立していません。

また、変動報酬には職員側の所得を変動させる側面があります。支払を将来へ持ち越す場合の適切な期間や割合も確立していません。管理者による主観評価や例外的な修正には、公平性を損なうリスクがあります。

小規模な組織では、制度を運用するための管理負担が、得られる便益を上回る場合もあります。市場賃金との整合や、労務・税務・賃金規程等の法的な確認についても、別途専門的な検討が必要です。

これらは、現在の研究段階で明確にしている限界です。

この研究が目指していること

SPRSが目指しているのは、成果を上げた職員へ報いることと、企業の利益や資金安全性を守ることを対立する問題として扱わないことです。

成果は、誰へどの程度配分するかを考えるために使います。企業全体としてどこまで還元できるかは、企業側の状態から別に確認します。そのうえで両者を接続し、制度が実際にどのように機能しているかを継続的に見直します。

この一連の仕組みを報酬計算だけではなく、経営管理として構成することがSPRSの研究対象です。

現段階では研究モデルであり、今後必要性が確認された場合には、実際の組織での検証や長期的な成果の確認へ進む余地があります。

成果が高ければ、その分だけ報酬を増やせばよいのではありませんか

必ずしもそうではありません。

成果が高いことは、誰へどの程度配分するかを考える重要な情報です。しかし、企業全体として支払える報酬総額は、利益や資金の状態を踏まえて別に確認する必要があります。

SPRSでは、この二つを分けたうえで接続します。

利益連動型の賞与制度と同じですか

同じではありません。

企業全体の利益だけから報酬を決めるのではなく、職員の成果と企業側の配分可能な範囲を別々に確認したうえで、両者を接続することがSPRSの基本的な考え方です。

SPRSを導入すると生産性や職員の意欲は上がりますか

現段階では、そのような効果を断定できません。

基本構造や架空条件での挙動確認は行っていますが、実際の組織への導入によって生産性、離職、職員の意欲等がどのように変化するかは検証していません。

どの組織でも使える制度ですか

いいえ。

SPRSは主として、人件費比率が高く、専門職を中心とし、成果を一定程度把握できる組織を想定しています。

成果を合理的に測れない場合や、企業側の利益・資金状態を継続的に把握できない場合には、適用には慎重な検討が必要です。

Author

高森 雅人

Wellside Consulting 代表/中小企業診断士

医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院に18年間、事務職として勤務。現在は経営管理を専門として、医療・介護を重点領域に、経営戦略、マネジメント体制、管理会計・経営数値管理に関する研究・コンサルティングを行う。

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