赤字、利益、現預金、成果、人件費率、現在の算定状況。経営判断では、分かりやすい数字ほど注目されやすくなります。

これらの数字は重要です。しかし、一つの数字だけで判断を完結させると、その数字の外側にある資金、組織、制度、時間、事業継続上の制約を見落とすことがあります。

Wellside Consultingが公開している複数の研究でも、テーマは異なりますが、現在見えている一つの結果だけで判断せず、判断対象を分けて確認する考え方を採っています。

「赤字だから撤退する」だけでは判断できない

不採算事業を見れば、まず赤字額に目が向きます。

しかし、赤字事業を撤退すれば、その赤字額だけ会社全体の利益が改善するとは限りません。

撤退後も本部人員、共通設備、契約、借入金等の負担が残る場合があります。撤退に伴う一時的な資金負担が生じることもあります。さらに、残したい事業に必要な人材、顧客関係、設備、許認可、管理機能等まで失う可能性があります。

したがって、不採算事業の判断では、

「その事業が赤字か」

だけではなく、

「撤退した後に残る会社が成立するか」

まで確認する必要があります。

これは、PEVA Modelの研究で扱っている問題です。

「利益や現預金がある」だけでは事業承継の準備状態は分からない

利益や現預金が十分に蓄積している会社を見ると、財務面では事業承継や経営者退職の準備が進んでいるように見えることがあります。

しかし、会社にある資金のすべてを経営者へ移転できるわけではありません。

会社には、事業を継続するために保持すべき資本や資金があります。

また、財務状態が良好でも、

  • 重要な判断が経営者へ集中している
  • 主要顧客との関係が経営者個人に依存している
  • 経営者しか持っていない知識がある
  • 経営者が不在になると管理が止まる

といった状態であれば、組織として承継準備が整っているとはいえません。

利益や現預金を見ることと、会社としての承継準備を見ることは別の問題です。

MERMでは、この違いを財務面と組織面の両方から考えています。

「成果が高い」ことと「多く支払える」ことも同じではない

成果連動報酬では、成果が高い職員やチームへ多く還元するという考え方は自然です。

しかし、成果が高いことと、会社として追加報酬を安全に支払えることは同じではありません。

成果が高くても、会社全体の利益や資金余力が十分でない場合があります。

反対に、会社に利益があっても、誰がどのような成果を上げたのかが曖昧であれば、適切な配分を説明することが難しくなります。

そのため、

「成果をどう評価するか」

と、

「会社としてどこまで還元できるか」

を分けて考える必要があります。

SPRSでは、この二つを分けたうえで接続する考え方を研究しています。

「今は要件を満たしている」ことと「来期も収益が続く」ことも同じではない

医療・介護では、現在診療報酬や介護報酬を算定できていることは重要です。

しかし、現在要件を満たしているからといって、将来も同じ収益を継続できるとは限りません。

例えば、現在は必要な人員配置を満たしていても、退職予定があり、後任採用が決まっていなければ、将来の算定継続にはリスクがあります。

現在値だけを見ると「問題なし」に見えても、将来状態を変える要因はすでに存在している場合があります。

そのため、

「現在要件を満たしているか」

と、

「将来も満たし続けられるか」

を分けて管理する必要があります。

制度報酬・算定要件を経営KPIへ変換する研究では、この将来の収益継続性を経営管理へ接続しています。

数字を増やすのではなく、判断対象を分ける

ここで重要なのは、経営指標を大量に増やすことではありません。

数字を増やせば経営判断の質が高まるとは限らず、確認項目が多すぎれば、何が本当に重要なのか分からなくなります。

必要なのは、

「一つの数字の中に、性質の異なる問題を押し込んでいないか」

を確認することです。

例えば、

  • 利益と資金
  • 現在状態と将来状態
  • 会社の安全性と経営者個人の目標
  • 成果評価と報酬原資
  • 撤退対象事業と撤退後企業
  • 財務状態と組織状態

は、それぞれ関係していますが、同じものではありません。

まず分けて確認し、その後で経営判断として接続することが必要です。

経営会議で確認すべきなのは「数字が良いか」だけではない

経営会議では、売上、利益、人件費率、稼働率、KPI等の数値が報告されます。

ただし、数値を見る目的は、良い・悪いを判定することだけではありません。

その数字が、

  • 何を示しているのか
  • 何を示していないのか
  • 将来どのように変わり得るのか
  • 他の条件と組み合わせたとき何が問題になるのか
  • どの意思決定につながるのか

まで確認して初めて、経営管理の情報になります。

一つの指標を万能な判断基準にするのではなく、その指標が担える役割と限界を明確にすることが重要です。

Wellside Consultingの経営管理研究との関係

Wellside Consultingでは、異なる経営課題について複数の研究を進めています。

不採算事業撤退では、撤退対象事業だけでなく撤退後に残る企業を見る。

事業承継・経営者退職では、財務面と組織面、会社と経営者を分けて見る。

成果連動報酬では、成果評価と企業として配分可能な範囲を分けて見る。

制度報酬では、現在の要件充足と将来の算定継続可能性を分けて見る。

研究テーマは異なりますが、いずれも単一の数字から自動的に答えを出すことを目的としていません。

経営判断に必要な異なる条件を分け、それぞれの意味と限界を確認したうえで、一つの意思決定へ接続することを重視しています。

まとめ

経営判断では、一つの数字を分かりやすい答えとして扱いたくなることがあります。

しかし、

赤字だから撤退する。

利益があるから承継準備ができている。

成果が高いから多く支払える。

今は算定できているから来期も大丈夫。

といった判断は、それだけでは十分でない場合があります。

重要なのは、数字を否定することではありません。

その数字が何を示し、何を示していないのかを明確にし、必要な条件を分けて確認することです。

そのうえで複数の情報を経営判断へ接続することが、経営管理の役割です。

Author

高森 雅人

Wellside Consulting 代表/中小企業診断士

医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院に18年間、事務職として勤務。現在は経営管理を専門として、医療・介護を重点領域に、経営戦略、マネジメント体制、管理会計・経営数値管理に関する研究・コンサルティングを行う。

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