赤字事業を撤退しても、その赤字額だけ会社の利益が改善するとは限りません。撤退後も残る固定費、撤退までの資金負担、債務、事業継続に必要な機能まで含めて、「撤退後に残る会社が成立するか」を考える必要があります。

赤字事業をなくせば、その赤字額だけ利益が増えるとは限らない

不採算事業を抱えている企業では、「赤字が続いているのだから撤退した方がよいのではないか」という議論が生じます。

確かに、赤字事業を継続することには損失があります。しかし、「その事業が赤字であること」と「その事業を撤退すれば会社が良くなること」は同じではありません。

例えば、ある事業に計上されている費用のすべてが、撤退と同時になくなるとは限りません。

本部人員、施設、情報システム、共通設備、管理部門、借入金、長期契約などは、その事業がなくなっても会社に残る可能性があります。

管理会計上、その事業への費用配賦がなくなっても、企業全体から実際の支出が減らなければ、経済的な改善にはつながりません。

したがって重要なのは、「その事業にいくら費用が計上されているか」だけではなく、撤退したとき、企業全体から実際にどの費用がなくなり、どの費用が残るかを確認することです。

撤退後の会社を一度作り直して考える

事業撤退を検討するとき、撤退対象事業を現在の会社から単純に差し引くだけでは十分ではありません。

撤退によって、売上構成、人員配置、共通固定費、本部機能、運転資金、設備、借入金、顧客関係、供給体制、管理機能なども変化する可能性があります。

つまり、本当に確認すべき対象は「撤退する事業」だけではなく、撤退後に残る会社です。

撤退後の会社がどの程度の売上を残し、どの費用を負担し、どの程度の資金を生み出し、必要な事業機能を維持できるのか。

この姿を事前に組み立て直して初めて、「撤退後も会社が成立するのか」を考えることができます。

黒字になることと、会社が存続できることは違う

撤退後の損益計画が黒字であれば、それだけで問題がないとは限りません。

例えば、撤退後の年間利益は確保できる計画でも、撤退直後に大きな支出が集中すれば、一時的な資金不足に陥る可能性があります。

退職や配置転換に伴う費用、契約解除、設備撤去、情報システムの移行、一時的な二重運営、運転資金の変化、借入金返済などが重なれば、最終的には黒字になる計画でも、そこへ到達する前に資金制約が生じることがあります。

そのため、撤退判断では、撤退後の最終的な損益だけでなく、そこへ至るまでの資金の動きも確認する必要があります。

「待った方がよい」場合でも、実際に待てるとは限らない

不採算事業については、直ちに撤退する以外にも、「一定期間改善してから撤退する」「準備してから売却する」「段階的に縮小する」といった選択肢があります。

一定期間待つことで、売却条件が改善したり、固定費削減を進めたり、顧客や人員の移行を準備したりできる可能性があります。

一方、その期間中にも赤字や資金流出は続きます。

したがって、待つことに経済的な意味があるかと、実際にその期間を資金面・事業面で耐えられるかは別の問題です。

「待った方が得になる」という見通しだけで、撤退を延期できるとは限りません。

財務数値だけでは見えない問題もある

事業撤退によって失われるものは、売上や利益だけではありません。

例えば、特定の顧客関係、重要な人材、技術・ノウハウ、調達能力、許認可、情報システム、管理機能、他事業を支えている共通機能などが撤退対象事業と結び付いている場合があります。

ある事業を撤退したことで、残したい事業まで機能しなくなるのであれば、損益上の改善だけで撤退を評価することはできません。

その能力を残せるのか、別の方法で代替できるのか、そのためにどの程度の時間と費用が必要なのかを確認する必要があります。

「どの事業をやめるか」から「撤退後の会社は成立するか」へ

不採算事業の撤退判断では、撤退によって変化する収益・費用を確認する差額損益分析は重要です。

しかし、それだけで判断を終えると、

  • 赤字部門をなくしたのに会社全体の利益が思ったほど改善しない
  • 撤退途中で資金不足が生じる
  • 残した事業の運営能力が低下する
  • 借入金返済や移行費用の負担に耐えられない

といった問題を見落とす可能性があります。

不採算事業の撤退は、「赤字事業を残すか、やめるか」だけの問題ではありません。「その選択肢を実行した後に残る企業が、持続可能な状態として成立するか」という経営判断として考える必要があります。

そのためには、利益だけでなく、営業活動からの資金創出、手元資金と支払余力、債務返済、撤退・移行に必要な資金、事業継続に不可欠な能力、撤退後も残る固定費などを分けて確認する必要があります。

重要なのは、これらを単純な一つの点数にして、自動的に答えを出すことではありません。

撤退後の企業として成立するために欠かせない条件と、それぞれの選択肢の利点・制約を分けて検討することです。

撤退後企業の成立性を考えるPEVA Model

Wellside Consultingでは、この問題を研究するため、Post-Exit Viability Assessment Model(PEVA Model)を構築しています。

PEVA Modelでは、撤退対象事業の損益だけではなく、撤退、縮小、売却、統合などの選択肢ごとに、実行後に残る企業を事前に組み立て直します。

そのうえで、収益性、資金、債務返済、撤退・移行負担、事業継続に必要な能力などを確認し、撤退後も企業が成立できるかを検討します。

研究用の試作モデルや架空条件による内部確認、公開事例による適用範囲の確認は行っていますが、企業内部の実データを用いた実地での検証や、外部専門家による正式な評価は現段階では実施していません。

また、PEVA Modelが最適な撤退方法や時期を自動的に決めるものでも、その利用によって撤退成功率や業績が向上すると確認されたものでもありません。

詳しい考え方、現在確認できていること、研究上の限界は研究ページで公開します。

まとめ

不採算事業の撤退は、「赤字だからやめる」という一つの損益判断だけでは十分ではありません。

撤退後に残る固定費、資金の動き、債務返済、移行負担、事業継続に必要な能力まで含めて、撤退後にどのような企業が残るのかを考える必要があります。

確認すべき対象を「撤退する事業」から「撤退後に残る企業」へ広げることが、不採算事業の撤退・縮小・売却・再編を考えるうえで重要です。

関連する研究

詳しく読む

PEVA Modelの研究内容を見る

Author

高森 雅人

Wellside Consulting 代表/中小企業診断士

医療法人豊田会 刈谷豊田総合病院に18年間、事務職として勤務。現在は経営管理を専門として、医療・介護を重点領域に、経営戦略、マネジメント体制、管理会計・経営数値管理に関する研究・コンサルティングを行う。

著者プロフィールを見る