診療科における疾患別売上高分析を行うための3つのポイント(医療と介護の経営ブログ#15)
あなたの医療機関や介護施設では売上高に関する分析をどのように行っていますか。例えば、医療機関においては月次において各診療科の売上高と延患者数を算出し、診療科別の平均単価の把握を行っているというのが一般的ではないでしょうか。
しかし、これでは各診療科の売上高の傾向は把握できても(単月の売上高をモニタリングするだけでは把握できない情報もありますが)、「患者が増えた・減った」「平均単価が増えた・減った」程度の把握しかできません。その結果、経営者は利益増加に向けた具体的な施策の検討や意思決定ができず、最悪の場合、経営が破綻してしまうという結末を迎えることになるのです。
そのような結末を迎えないためにも、今よりさらに一歩踏み込んだ売上高分析を行い、どの疾患がどのようなアプローチで売上高や利益を支えているのかを把握する必要があります。今回は各診療科における疾患別売上高分析のポイントについてお伝えします。
1.取扱い疾患ごとの「患者数」と「平均単価」を把握する
各診療科の売上高を構成している疾患ごとの売上高と患者数を抽出します。それらを抽出することで、疾患別の平均単価を算出することができます。例えば、年間の胃癌患者の売上高が96百万円、取扱患者が80件/年の場合、胃癌患者の平均単価は120万円/人と算出することができます。これは各診療科の診療報酬データを利用することで算出することができます。
疾患に対する患者数が多いということは、罹患している人々が医療サービスを求めて来院しているということです。反対に患者数が少ない場合は、その疾患に罹患している患者数が少ない、もしくは患者の医療ニーズを満たすまでの医療サービスが提供できていないと捉えることができます。
次に、平均単価が高い疾患は手術・処置・検査などの中でも高付加価値な医療行為が絡んでいる場合が多いです。高付加価値な医療行為は、高度な医療技術・高額な医療設備・チーム体制の構築など要求水準が高い場合が多いことから、どの医療機関でも実施できるというものではありません。そのため、高付加価値な医療行為は他の医療機関との差別化につながりやすいことから、医療機関としての強みとして把握しておくことが重要です。
このように、各疾患に関する患者数や平均単価を把握することで、あなたの医療機関がどのような疾患を持つ患者のニーズとマッチングしているか、他の医療機関との差別化がどのような点でできているかを把握することができます。
2.取扱い疾患ごとのコストを算出し「粗利」を把握する
各診療科における疾患ごとの売上高を計上するために、どの位のコストが必要なのかを把握することで各疾患の粗利を把握します。具体的には、疾患を治療するための医療行為を提供するために「直接掛かるコスト」を算出します。例えば、下記のような項目が挙げられます。
① 材料費…薬剤・医療材料・衛生材料など医療行為を行うために必要になる材料
② 医療行為に要する作業時間…手術・処置・検査などを行うために必要となるスタッフの人数や時間で把握します。厳密に計算する必要はありませんが医療行為ごとの標準的な実施時間を定義して確認するだけでも人的コストがどのくらい消費しているのか把握することができます。
一方で、医療機器の減価償却費や保守料などは医療機器が稼働しなくても継続的に発生してしまうコストです。このような間接的なコストも含めてしまうと疾患に掛かるコストとしての精度が低下してしまうため、固定費と捉えられるコストや間接的なコストは疾患に掛かるコストとして計上しない方が良いと言えます。
3.各項目の上位の疾患に対してそれぞれの対策を行う
上記の取組みにより、疾患別の患者数・平均単価・利益率という各項目の状況を把握することができます。各項目の上位の疾患に対して、下記のような、その他の各項目値の改善に向けた対策を行うことが重要です。
・患者数を増加させる…対象疾患を主に取扱っている診療所・クリニックなどと地域連携強化
・平均単価を増加させる…対象疾患のアウトカムに有用な新たな診療報酬算定への取組み
・利益率を改善させる…対象疾患の医療行為に用いるコストの見直し・パス作成によるコストの安定化
各項目において他にも様々な対策が考えられますが、それぞれの目的に見合った正しい対策を行うことが大切です。「医業収益がどのように構築されているか」を正しく理解する人材を中心に継続的に地道に行うことが重要です。
今回のまとめ
今回は各診療科における疾患別売上高分析のポイントについてお伝えしました。各診療科における売上高分析などを行わなければ利益増加に向けた具体的な対策ができず、経営が破綻してしまうリスクも否定できません。そのようなリスクを回避させるためには、診療科の取扱い疾患ごとの「患者数」「平均単価」「利益率」を把握し、各項目上位の疾患に対して今以上に利益を生み出すための施策を行うことが重要です。このような分析や対策は短期間で実施できるものではないため、医療機関において継続的に行われる必要があります。その業務に集中させるための担当者や部門を設置して、利益を生み出しやすい事業体質を創り上げることが重要です。