経営戦略に医療事務・管理事務を活用する3つのメリット(医療と介護の経営ブログ#02)

あなたの医療機関や介護施設では、誰が経営戦略を策定していますか?経営者が全て一人で作成している場合もあるでしょうし、経営者が経営計画の骨格を構築し、経営者を支えるスタッフがそれに基づき、詳細な計画を作成する場合もあると思います。経営計画は本質的には経営者自らが作り上げなければなりません。しかし、実務的な経営計画の作成過程は組織において様々であり「これが正解」といったものはありません。

このように、組織において様々な過程を経て作成される経営計画ですが、肝心のその内容を見てみると、次のようなものであることがあります。

短期経営計画はあっても3年~5年にわたる長期経営計画が無い

長期的な「目指す姿」がなく、1年間の経営計画だけを毎年策定しているため、実施事項に過去から将来にかけての一貫性がなく、やることがコロコロと変わり、スタッフやキャッシュなどの経営資源を上手く活用できていない場合があります。

具体的な行動計画まで落とし込みがされていない

将来的に「目指す姿」は描かれているのですが、その目標達成までの具体的なステップが計画されておらず、どのような行動計画で目標を達成するのか明確になっていない場合です。「この活動計画はどの部門が行い、いつからいつまでに、どのように実施するのか」など、具体的な活動計画がなく、いつの間にか実施されなくなってしまう場合です。

他にも「投資計画が経営戦略に組み込まれていたが、投資の期待効果に根拠がなく、計画通りの投資効果が出なかった」「経営戦略に財務計画が考えられておらず、実行段階で資金運用に困窮してしまった」など、しっかりとした経営計画が立てられていないために、計画通りに進捗しない場合も見受けられます。

これらのような、経営計画に関する落とし穴を避けるためには、経営計画を策定する際に気を付けなければならないことがあります。例えば、先ほどの事例で考えると、① 3年~5年後を見据えた中長期的視点を踏まえた経営戦略を立てること ② 経営計画が具体的な実施事項まで落とし込みがされていること ③ 医療機関や介護施設などの経営の現状を起点とした計画であること…などが注意することとして挙げられるといえます。

医療機関や介護施設において、事業を持続させるためにはしっかりとした経営計画を作り上げる必要があります。そのためには経営に関する知識やスキルを持ち、ヒト・モノ・カネなどに挙げられる組織内の経営資源の現状や、臨床現場のオペレーションの現状などを正しく把握できる人材が組織内に必要となるでしょう。そのような人材があなたの医療機関や介護施設にいなければ、計画的な育成を進めていく必要があるといえるでしょう。

そして、医療機関や介護施設において先述したような、経営戦略に関する人材になり得る最適な職種は事務職なのではないでしょうか。医療事務や管理事務に携わるスタッフを経営に特化したスタッフに育て上げるのです。彼らを経営に特化した人材にした場合、次のようなメリットがあります。

診療報酬・介護報酬など、売上に関わる制度の仕組みを知っている

利益が無ければ事業を継続させることはできません。そして利益は売上がなければ生み出すことはできません。医療・介護において主な収入源は診療報酬であり介護報酬です。その収入源の仕組みを熟知しているのは医事部門です。また、DPC制度においては、正しいコーディングを行うことが売上リスクを最小限にとどめるために必要ですが、そのような役割も医事部門が担っています。

さらに、施設基準に関する詳細な条件を熟知しているのも医事部門である場合が多いでしょう。施設基準は経営的に考えると「その収入を得るためにどのくらいのコストが要求されているのかを表している」と受け取ることもできます。このように、医事部門は利益に関わる戦略を考える上で重要な存在であるといえます。

人事管理や財務管理など経営資源についての知識を有している

経営資源は事業を継続させる上で必要不可欠な要素ですが、医療機関や介護施設においてそれらを管理しているのが人事部門や経理部門です。しっかりとした中長期経営計画を立てる際には人事計画や財務計画をセットで構築することが必要です。

事業を継続させるために人事部門や経理部門は経営資源を常に管理しています。人事部門であれば施設基準の維持に必要な職種の人員数を管理しているでしょうし、経理部門であればキャッシュを管理し、必要に応じて財務活動を行っているでしょうし、事業継続に要しているコストも把握しています。経営資源を何の目的で使用しているのかは事業を継続するうえで非常に重要といえます。これらの経営資源を管理する人事部門や経理部門のスタッフは経営戦略を構築する上で重要な存在といえます。

医療や介護の現場を見ている

経営戦略を立てる際に、現実とかけ離れた行動計画が立てられることがあります。その原因として利用者のニーズや現場の状況を十分把握できていないことがあります。利用者のニーズや現場の状況を聞いた時にその意味を理解できなければ、最適な経営戦略が構築できず、現実的な活動計画への落とし込みもできない可能性が高いといえます。

医事部門のスタッフは医師事務補助や診療情報の管理、利用者の方々への対応、院内の委員会への参加など、臨床の現場を間接的にバックアップしている場合が多いです。また、診療報酬やDPC、介護報酬を理解する上で臨床や介護の現場でどのような業務が行われているのかを日々の業務で見ています。私も医療機関で医事部門に勤務していた時は、外来・入院ともに経験しましたし、診療部門としては整形外科や外科、救命救急などを担当していたので、疾患や治療行為など医学に関する専門知識を習得することができました。医事部門は間接的ながらも日々の業務の中で医療や介護の現状を見ているのです。

今回のまとめ

このように、医療事務や管理事務に携わるスタッフを経営戦略に関する人材として育て上げることには、多くのメリットがあります。それは、経営戦略を考える上で必要な「売上の仕組み」「ヒト・カネなどの経営資源の管理」「医療や介護の現場」などを日々の業務の中で実際に携わりながら経験を積んでいるためです。しかし、「経営に強いスタッフに育ってくれ」と手放しで期待していても「求める人材」には育ってくれません。人事制度の中で戦略的に人材育成をしっかりと進める必要があります。

あなたの組織でも経営に関する知識やスキルを彼らに計画的に教育することで、経営に特化したスタッフを育て上げ、今後さらに厳しさが増す医療・介護業界に備える必要があるのではないでしょうか。