会社に利益や現預金が蓄積していることだけでは、事業承継や経営者退職の準備が整ったとはいえません。
会社として継続するために必要な資本を確保できているか、経営者へどの程度の価値を移転できるか、経営者が離れた後も組織が機能するかを分けて確認する必要があります。
これらをExit直前に確認するのではなく、数年間の時間軸で管理することが重要です。
利益が蓄積していることと、
Exitの準備が整っていることは同じではない
長年利益を蓄積してきた会社では、貸借対照表上の純資産や現預金が増えていることがあります。
しかし、その資金すべてを経営者へ移転できるわけではありません。
日常の事業運営、仕入、人件費、借入返済、設備投資、景気変動などに対応するため、会社には継続して保持すべき資本と流動性があります。
Exitを考える場合でも、最初に守るべきなのは会社の事業継続性です。
会社に必要な資本と、移転できる資本を分ける
現預金が多いことだけで、「余剰資金が多い」とは判断できません。
会社の事業規模、資金繰り、将来の支出、借入、事業上のリスク等によって、必要となる資金水準は異なります。
そのため、
- 会社を継続するために必要な資本
- それを超えて将来の配分対象となり得る資本
を分けて考える必要があります。
この区分を行わずに経営者への価値移転だけを考えると、Exit後の会社の安全性を損なう可能性があります。
企業価値と、経営者が受け取る価値は同じではない
もう一つ混同しやすいのが、会社の企業価値と経営者個人が受け取る経済価値です。
企業価値が高くても、その全額が経営者の受取額になるわけではありません。
また、経営者への価値移転には、Exit時の株式等の対価だけでなく、Exitまでの期間を含めて検討すべき場合があります。
したがって、会社側の価値と経営者側へ移転される価値は、分けて把握する必要があります。
財務面が整っていても、
組織が経営者へ依存している場合がある
Exit準備では財務だけでなく、組織の状態も重要です。
例えば、
- 重要な意思決定がすべて経営者へ集中している
- 主要顧客との関係が経営者個人に依存している
- 重要なノウハウを経営者だけが持っている
- 経営管理の仕組みが経営者自身の確認によって成り立っている
- 経営者が不在になると重要な業務や判断が止まる
といった状態では、会社に十分な資金があっても承継準備が整っているとは限りません。
財務的な準備と、経営者の関与が低下した後も会社が継続できる組織的な準備は、別々に確認する必要があります。
経営者の希望額と、会社としての準備状態も分ける
経営者には、退職後の生活、資産形成、次の活動等を踏まえた経済的な目標がある場合があります。
これは重要な検討事項ですが、会社側の安全性とは別の問題です。
経営者が希望する金額を受け取れるからといって、会社としてExitの準備が整っているとは限りません。
反対に、会社側の財務・組織条件が整っていても、経営者個人の経済目標には届いていない場合があります。
会社としての準備状態と、経営者個人の目標達成を分けて考えることが必要です。
Exitは直前ではなく、
数年間の経営課題として考える
利益蓄積、資本配分、後継体制、権限移譲、経営管理、顧客関係、知識移転などは、短期間で一度に整えられるものではありません。
そのため、Exitは「いつ売るか」「いつ引退するか」だけを考えるのではなく、現在の状態から、数年間かけて会社と経営者をどの状態へ移していくかという経営管理の問題として捉える必要があります。
時間軸で見ることで、現在不足している準備と、将来までに改善すべき事項を整理しやすくなります。
財務と組織を一体で見る研究モデルMERM
ウェルサイドコンサルティングでは、この問題を研究するため、MERMという経営管理モデルを構築しています。
MERMでは、
- 事業継続に必要な資本・流動性
- 余剰・移転可能資本
- 企業価値
- 経営者への価値移転
- 組織の承継準備
を一つの時間軸上で扱います。
会社としてのExit準備は、財務面と組織面の両方を確認し、経営者個人の経済目標は別に扱います。
MERMの詳しい考え方、基本構造、現在の研究段階と限界は、研究ページで公開しています。
現時点では研究モデルである
MERMは、研究用モデルを用いて構造や考え方の妥当性を確認している段階です。
実際の企業で妥当性が確立された診断ツールではなく、MERMを使えばExitが成功する、企業価値が高まる、最適なExit時期が分かるといったものではありません。
公開しているのは、現在の研究段階で外部公開可能と判断した基本的な考え方と構造です。
まとめ
事業承継や経営者退職を考える際は、会社に利益が蓄積しているかだけを見るのでは不十分です。
会社に必要な資本を守りながら、移転可能な資本、企業価値、経営者が受け取る価値、組織の承継準備を分けて確認する必要があります。
さらに、それらをExit直前の一時点ではなく、数年間の時間軸で管理することが重要です。
事業承継・経営者退職を会社と経営者双方の長期的な経営課題として扱うことが、準備の出発点になります。