医業収益・介護収益を分解する3つのポイント(医療と介護の経営ブログ#07)
あなたの医療機関や介護施設では毎月の医業収益や介護収益などの売上高の分析は行われていますか。損益計算書などで売上高全体の金額や費用を引いた営業利益や経常利益の確認はしていると思いますが、売上高を構成する要素に分解して状況把握することまでは行っていないという医療機関や介護施設は意外に多いと感じます。
医療機関や介護施設の損益計算書において多く見られる売上高の構成要素分解の一例として「売上高=平均単価×延患者数」が挙げられます。このようにシンプルに2つの項目に構成要素分解するだけでもメリットはあります。例えば目標売上高が10,000千円だったとして、売上高実績が12,000千円だったとしましょう。しかしこれだけではなぜ12,000千円を達成できたのか把握できないわけです。先ほどの「売上高=平均単価×延患者数」に当てはめると「売上高12,000千円=平均単価150千円×延患者数80人」かもしれませんし、「売上高12,000千円=平均単価50千円×延患者数240人」かもしれないのです。つまり、構成要素の分解が行われていないと、目標の売上高を達成していても、それぞれの構成要素がどのように影響しているのかを把握することができないわけです。
このように売上高を構成要素に分解することにより「想定したより平均単価(延患者数)が良かった・悪かった」などの現状を知ることが可能になり、医業収益や介護収益の成長につなげることができるのです。今回は売上高を構成要素に分解する際に意識したい3つのポイントをお伝えします。
構成要素の分解は自分達がコントロールできる項目で行う
売上高の構成要素分解は売上高を構成する項目の状況を把握して、売上高の改善につなげるために行います。構成要素の項目の候補として考えられるのは「診療科」「病棟」「疾患」「患者の地域」「患者の年齢」「患者の性別」など様々な項目が考えられます。ここで考えて頂きたいのですが、構成要素に分解する目的は何でしょうか?それは構成要素の現状を把握して売上高の向上に向けてどのような事業活動を行うかを検討・実施するためです。
例えば、患者の「地域別延患者数」を構成要素として設定したとします。「各地域:延患者数×平均単価」という構成要素に分解した結果、各地域からどの位の患者が来院しているのか把握することができます。しかし、各地域の患者数を把握したとしても該当する地域に対して何かしらの対策が検討されているでしょうか。また、そうであっても「各地域からの患者来院数」を組織内で直接的にコントロールできるでしょうか。コントロールできない場合は「現状把握はできるがその変化への対策が打てない」ということも考えられます。構成要素を設定する際には構成要素の変化に対して組織内で具体的な対策が行えるものであるのかを踏まえて設定する必要があります。
それぞれの構成要素の傾向を把握する
売上高をいくつかの構成要素に分解した場合、毎月の構成要素の現状を把握することができます。毎月の状況が把握できるのですから、各月の状況を並べて構成要素の傾向を把握します。構成要素の中には単月レベルで見た場合、季節的な影響や、突発的なイベントの発生などで大きな増加・減少が発生する場合があります。これらの影響に踏まえずに「上がった」「下がった」と一喜一憂してその都度対策を変化させると、せっかく行った対策も効果が出ない前に止めるということも考えられます。対策には即効性があるものと長期的な取り組みで徐々に効果が表れるものがあります。
また、具体的な対策にはスタッフの活動、設備投資など、いくらかの経営資源が必ず消費されます。潤沢な経営資源を持つ医療機関や介護施設であっても効果的な経営資源の使い方をすることは当然のことです。経営資源を無駄にしないためにも、構成要素の長期的レベルの変化の把握を持って対策の有効性を評価することが必要です。
それぞれの構成要素のコントロールを行う部門を明確に設定する
構成要素の項目は具体的な対策を実施できるものに設定し、毎月の実績についても一喜一憂しないために傾向も把握できるようにしたら、あとは売上高を向上させるための実施項目を実行します。構成要素の改善を継続的に取り組むために、各構成要素のコントロールを行う部門を明確に設定する必要があります。加えて各構成要素の現状把握・問題点・課題・対策内容などの進捗状況の報告を担当部門に行わせることが重要です。実績の報告や分析を経営企画室などが行うケースも見受けられますが、実施事項の担当部門と進捗状況の報告部門を同じにしなければ、報告内容と実際の活動の間に齟齬が必ず発生します。各部門の管理者が出席する管理者会議などを毎月開催し、各部門の管理者に担当する構成要素の報告を行わせることが大切です。
今回のまとめ
医業収益を分解して構成要素ごとの現状を把握し対策を行うことは、医療機関や介護施設の売上高を成長させるために重要な取り組みとなります。しかし、誤った構成要素を設定したり、構成要素の傾向の把握を怠ったり、各構成要素の担当部署の設定があいまいであったりすれば、誤った意思決定や対策を行ってしまうリスクが発生してしまうことも考えられます。構成要素に基づく売上高の成長を目指す仕組みを構築する際には、医療や介護の仕組みを熟知している専門的な経営コンサルタントのアドバイスを活用して行うことが重要であるといえるでしょう。